ゆとりーなの日記

日記的な事を書いて行くと思はれる

戰前󠄁風の文󠄁章を書く際の同音󠄁の漢󠄁字による書換へに就いて

當用漢󠄁字に含まれない漢󠄁字を含む熟語に關して、似たやうな意󠄁味で當用漢󠄁字に含まれる字に置き換へると云ふ所󠄁謂書換字と呼ばれるものがある。戰前󠄁風の文󠄁章を書くに當つてはこの邊りを押へておいた方が良いであらう事は間違󠄂ひないが、書換字とされる熟語に關しても當時の辭書を見ると一槪󠄀に書換前󠄁に戾してしまへば良いかと云ふと怪しい處もある。そこで今回はその邊りを一覽にしてみた。書換字とされる熟語の例に關してはWikipedia同音の漢字による書きかえ - Wikipediaを、實際の戰前󠄁の辭書は昭和17年發行の辭苑を參照した。猶󠄂、表の漢󠄁字に就いては總て新字體で載せたが、辭苑で存在する場合は基本的に舊字體で載つてゐる事に注󠄁意󠄁されたし。

書換字 書換前󠄁 書換後 備考
暗誦→暗唱 × 他に諳誦の表記アリ
闇夜→暗夜
意嚮→意向 ×
慰藉料→慰謝料 × いしゃりょうの見出しはないので代はりにいしゃを參照
衣裳→衣装 ×
陰翳→陰影 それぞれ別見出しで存在
穎才→英才
叡智→英知 × 英智の見出しは存在する
掩護→援護 それぞれ別見出しで存在
恩誼→恩義
廻転→回転
火焰→火炎 ×
挌闘→格闘
活潑→活発 ×
間歇→間欠 ×
肝腎→肝心
稀少→希少
奇蹟→奇跡 ×
兇器→凶器
漁撈→漁労 ×
伎倆(技倆)→技量 ×
区劃→区画 ×
掘鑿→掘削 ×
訓誡→訓戒 ×
燻製→薫製
決潰→決壊
蹶起→決起 それぞれ別見出しで存在
訣別→決別 ×
絃歌→弦歌 ×
儼然→厳然
嶮岨→険阻
交叉→交差 ×
扣除→控除 ×
礦石→鉱石 ×
香奠→香典
広汎→広範 見出しが見つからず
亢奮→興奮 ×
昂奮→興奮 それぞれ別見出しで存在
弘報→広報 見出しがみつからず
曠野→広野 それぞれ別見出しで存在
媾和→講和 それぞれ別見出しで存在
涸渇→枯渇 ×
骨骼→骨格
雇傭→雇用 ×
根柢→根底 ×
醋酸→酢酸 ×
坐視→座視 ×
雑沓→雑踏 × 他に雜鬧の表記アリ
讃辞→賛辞
撒水→散水 × さんすいの見出しはないのでさんすいしゃを參照
刺戟→刺激
屍体→死体
車輛→車両 ×
蒐集→収集 それぞれ別見出しで存在、蒐集に關しては蒐輯の表記アリ
終熄→終息 ×
聚落→集落 ×
障碍→障害 他に障礙の表記アリ
銷却→消却 ×
陞叙→昇叙 ×
焦躁→焦燥 見出しが見つからず
牆壁→障壁 それぞれ別見出しで存在
蒸溜→蒸留 × 他に蒸餾の表記アリ
書翰→書簡
抒情→叙情 ×
試煉→試練 ×
浸蝕→浸食 ×
伸暢→伸長 ×
滲透→浸透 ×
訊問→尋問 それぞれ別見出しで存在
衰頽→衰退 それぞれ別見出しで存在
尖鋭→先鋭 ×
銓衡→選考 ×
洗滌→洗浄 それぞれ別見出しで存在
煽情→扇情 ×
擅断→専断
戦歿→戦没 ×
象嵌→象眼
綜合→総合
相剋→相克 ×
剿滅→掃滅 ×
簇生→族生 見出しが見つからず
沮止→阻止
疏通→疎通 ×
褪色→退色
歎願→嘆願 ×
煖房→暖房 ×
智慧→知恵 × 他に智惠の表記アリ
註釈→注釈
沈澱→沈殿 ×
牴触(觝触)→抵触 觝觸の表記はナシ
鄭重→丁重 ×
叮嚀→丁寧
碇泊→停泊 ×
手帖→手帳 ×
顚倒→転倒 ×
蹈襲→踏襲 ×
杜絶→途絶 ×
悖徳→背徳 ×
破毀→破棄 それぞれ別見出しで存在
曝露→暴露
破摧→破砕 ×
醱酵→発酵 ×
抜萃→抜粋 拔粹は拔萃の誤りとして別見出しが存在
叛乱→反乱
蜚語→飛語
符牒→符丁 他に符張の表記アリ、符牒は見出しにはなく說明文󠄁中にのみ存在
篇→編
編輯→編集 ×
抛棄→放棄
防禦→防御 ×
繃帯→包帯 ×
厖大→膨大 ×
庖丁→包丁 ×
輔佐→補佐 ×
摸索→模索 ×
野鄙→野卑 ×
熔接→溶接 × × 鎔接の表記のみアリ
慾→欲
理窟→理屈 ×
悧巧→利口 × × 利巧の表記のみアリ
掠奪→略奪 略の例中に存在
諒解→了解 ×
輪廓→輪郭 ×
連繫→連係 ×
聯合→連合
彎曲→湾曲 ×

以上Wikipediaにある1956年に國語審議會が報吿した書換への一部を列擧した。これを見ると、どちらでも良い字と云ふものが結構󠄁ある事が分󠄁る。「複數の書き方があつたものを當用漢字に含まれる字の方に統一した」と云ふ物がかなりあると云ふ事である。一方で書換前󠄁の方が戰前󠄁の辭書に載つてない場合もある。辭書を1種類しか參照してゐないので他の辭書を參照すればある可能性もあり「なかつた表記」とは言へないが、或る辭書には載らないくらゐのレベルの書き方であると云ふ事は言へるかもしれない(これは逆󠄁に云へば書換後の表記が當時なかつたとも云へない訣だが、書換前󠄁の方を選󠄁べばほゞ自動的に現代で主流の書き方とは差別化󠄁を圖れるので、戰前󠄁風の表記を目指すと云ふ目的からすればこちらはさほど氣にする必要󠄁はないだらう。)。
結論としては、當時の辭書を當つてみて、書換前󠄁の方しか載つてゐないものは書換前󠄁を選󠄁んだ方が良いだらう。兩方あるものはどちらでも良いが、書換前󠄁の方を選󠄁んだ方が今との差別化󠄁を圖れると云ふ意󠄁味では雰󠄁圍󠄁氣がより出せるかもしれない。但し當時の使󠄁用例でどちらが多いかに關してのヒントになる可能性があるので、見出し中での順序も參考にした方が良いかもしれない。また、別見出しとなつてゐるものに關しては使󠄁分󠄁けが存在すると云ふ事なので、意󠄁味を確認󠄁してより適󠄁切な方を選󠄁ぶ必要󠄁がある。書換前󠄁の方が載つてゐないものは保留として、ひとまづ書換後の方で書いておいた方が安心である。少なくとも書換後の方は辭書に載る程󠄁度には使󠄁用例があると推察できる。